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水戸地方裁判所 昭和48年(レ)3号 判決 1976年1月20日

控訴人

株木元吉

右訴訟代理人

上田不二夫

被控訴人

飯塚賢次郎

右訴訟代理人

糸賀悌治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一まず、被控訴人主張の土地交換契約の存否について検討する。

(一)  本件土地(一)が被控訴人、本件土地(二)が控訴人の各所有であつたところ、相互にこれ等土地を交換してその所有権を移転することにつき、昭和四三年四月一七日茨城県知事から農地法第三条による許可がなされた事実は、当事者間に争いがない。

(二)  <証拠>を総合すると次の事実を認めることができる。

(1)  被控訴人は、かねてから陸稲を栽培するため自宅から控訴人所有の本件土地(二)を経由して右栽培予定の所有畑まで送水管を敷設する必要があるところから、自己所有地の一部を控訴人所有の本件土地(二)と交換しようと計画していたこと。

(2)  そこで、被控訴人は、昭和四二年一二月ころ控訴人宅を訪れ、同人に被控訴人所有地の一部と本件土地(二)との交換方を申し入れたが、その際は控訴人の女婿の訴外株木清が出稼ぎに行つて留守のため、控訴人から即答を得られなかつたこと。

(3)  その後被控訴人は、右清帰宅の旨連絡を受け、昭和四三年二月四日にあらためて控訴人宅を訪れ、右清も同席の場で被控訴人所有の本件土地(一)または他の一筆(ただし、本件土地(三)とは異なる土地)と控訴人所有の本件土地(二)との交換方を申し入れたところ、控訴人はその場で清を含む同居の家族の同意を得たうえで本件土地(一)と本件土地(二)の交換を承諾し、ここに被控訴人主張のとおりの土地交換契約が締結されたこと。

(4)  被控訴人は、その翌五日、清の運転するライトバンで筑波町農業委員会に赴き、同所でその職員が、被控訴人の依頼によりその氏名を、また清の依頼により控訴人の氏名を申請人欄に記載し、本件土地(一)の所有権を被控訴人から控訴人へ、本件土地(二)の所有権を控訴人から被控訴人へそれぞれ移転することについての農地法第三条による許可申請書(甲第三号証の一、二)を作成し、被控訴人主張の土地交換契約に基づく本件土地(一)、(二)の各所有権移転につき、茨城県知事宛右許可申請の手続をしたこと。

(5)  被控訴人主張の土地交換契約締結日ののちである昭和四三年四月ころに、被控訴人は本件土地(二)に陸稲栽培のための送水管を敷設し、控訴人は本件土地(一)にねぎを植え、右交換により取得すべき土地を使用したこと<証拠判断略>。

(三)  <省略>

二そこで、抗弁について判断する。

(一)  <証拠>によれば、控訴人が交換契約の対象地と誤認したと主張する本件土地(三)は、東側を幅員約八メートルの舗装道路(県道谷田部明野線)に、北側を幅員約四メートルの舗装道路にそれぞれ接する、東側の一辺が約三九メートル、北側の一辺が約二九メートルの不整形鍵形地であつて、交換契約締結当時における登記簿上の面積は八七九平方メートルであるところ、前記鑑定方法によつて得られた右時点の評価額は金四四万八、二九〇円(一平方メートル当り金五一〇円)であることが認められる。

しかしながら、原審および当審における控訴人本人の尋問の結果によれば、同人は本件土地(一)および同(三)がいずれも自宅の近傍にあるところから、右両地を日頃明確に識別していたことが認められ、しかも同人が被控訴人と交換契約を締結したのち本件土地(一)にねぎを植えたことは既に認定したとおりであつて、この行為は控訴人において同土地が右交換の対象であることを認識していたからこそなされたものと推認される。

また、控訴人がその主張のように、本件土地(一)に比べ耕地として優れている本件土地(三)の地番を知らなかつたとしても、これを同人が交換契約締結の際に本件土地(三)を同(一)と誤認したことを推測させる理由とはなしがたく、他に抗弁(一)の事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて、抗弁(一)(注・錯誤による無効)は採用できない。

(二)  本件土地(二)の所有権を交換により被控訴人に移転することについての農地法第三条による許可申請書(甲第三号証の一)は、訴外清と被控訴人の両名が筑波町農業委員会に赴いて作成提出したが、その前日控訴人宅で清ら家族の同意を得て交換契約を締結したことは既に認定したところで、右認定の経緯に照らすと右訴外人は控訴人申請名義の右許可申請書の作成提出の委任を受けたものと推認すべきであり、<証拠判断略>。

ところで、農地法施行規則第二条第二項中、農地法第三条による許可申請書に権利移動の「当事者が連署するものとする。」との規定は、右申請が当事者の意思に基づくものであることを確認するため手続上の審査権限を明らかにする趣旨で定められた訓示的のものと解せられるところ、本件における許可申請は結局控訴人および被控訴人の意思に基づいてなされたこと、右に認定したところから明らかであるから、右両名が申請書に自署しなかつたことが右規定の文言に添わないとしても、規定の趣旨に照しその瑕疵が右許可申請およびこれに基づく茨城県知事の許可を無効とする程重大かつ明白なものと解することはできない。

従つて、抗弁(二)(注・農地法第三条の許可の無効)も採用できない。

三以上に認定判断したところによると、被控訴人主張の、昭和四三年四月一七日農地法第三条所定の茨城県知事の許可により効力を生じた交換契約に基づき、控訴人に対し本件土地(二)について所有権移転登記手続と同土地の引渡を求める請求は理由があり、これを認容した原判決は相当である。

よつて、本件控訴はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(長井澄 太田昭雄 寺尾洋)

物件目録<省略>

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